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40代には「人生の復習として」かな?…町山智浩『トラウマ恋愛映画入門』

9月5日が発売日と告知されていて、発売日を楽しみに待っていた、町山智浩『トラウマ恋愛映画入門』(集英社)。
発売日を楽しみに待つ本があるっていいなぁと、われながら思った。
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帯には「恋愛映画は、人生の予行演習だ」とあって、恋愛映画にかぎらず、映画にはそういう面があるけれど、正直、40代半ばにもなると、予行演習したところでしかたないわけで、復習というか、ひとつの解答例を「ふむふむ」と読む感じかな。
でも、矛盾するかもしれないけど、この本に取り上げられている映画のことがわかるのは、そういう、もう予行演習する必要のない世代のほうかもしれない…。

『エターナル・サンシャイン』が取り上げられていたのが、よかった。
テレビでたまたま観はじめて、しかも日本語吹き替えだったのに、引きこまれて最後まで観てしまった映画(家で映画というのは、集中力がもたなくて、わたしにはけっこうむずかしい。録画したまま観ていない映画が何本あることか)。
タイトルが、イギリスの詩人アレクサンダー・ポープの「エロイーザからアベラードへ」という、中世フランスの「アベラールとエロイーズ」の愛の往復書簡集を題材にした詩から取られていたとは、知らなかった。

印象に残ったのは、先週、伝記映画を観た、ヒッチコックの『めまい』を取り上げた章。
このあとに作られたのが、映画に描かれた『サイコ』で、映画は、雨降って地固まる、のような、ヒッチコック夫婦の固い絆を讃えるようなストーリーだったが、町山さんは、その『サイコ』のあとに撮った『鳥』(映画『ヒッチコック』は、ヒッチコックが『鳥』製作のインスピレーションを得たところで終わる)で、ヒッチコックが主演女優ティッピ・へドレンに対してした仕打ちについて、容赦なく書く。
それを思うと、映画『ヒッチコック』って、「ヒッチコック劇場」の体裁をとっていることといい、映画全体が「悪い冗談」って感じかも。

思わぬ収穫だったのが、『赤い影』。
大学の必修の英語で読んだ、「レベッカ」のダフネ・デュ・モーリエの「今見てはだめ」が原作だったのだ。
授業のときの印象としては、出てくる老婆が気味悪かったのと、「沈みゆくベネツィア」がピンとこず、結局ピンとこないまま読み終えた。
「沈みゆくベネツィア」については、7、8年前、イタリア旅行に行って、たやすく理解できたのだが(雨が降り過ぎたら、ホントにビショビショだとか)。
それはともかく、この章を読んで、「今見てはだめ」って、そういう話だったのね、と(イタリア旅行のあとでは、あの話は、イギリス人デュ・モーリエが沈みゆくイタリアの古都ベネツィアそのものが描きたかっただけで、出てくる老婆も夫婦も比較的どうでもいいのではないか、と解釈していたのだけど)。

町山さんの、驚異的な映画再現能力(ラジオでおなじみ)で、観ていない映画についてでも、充分楽しめる。
でも、こういう映画再現ができるのって、わたしが知っているかぎりでは、男性の映画評論家だけ。
あまり男女の脳の違い云々…とか言いたくないのだけど。
女性だと、このときのヒーローのセリフがどうとか、抱きしめ方がどうとか、表情がどうとか、そういう論になることが多いと思う。

そういうわけで、町山さんによって再現された『ラスト・タンゴ・イン・パリ』を読んで、えーっ、そんな話だったっけ?!と、驚いた。10年ほど前にリバイバル上映で観たのに、あまりの自分の覚えてなさに。
あと、この主演女優マリア・シュナイダーは、アラン・ドロンの元婚約者ロミー・シュナイダーの娘だと思いこんでいたけど、まったく関係ないことがわかった。
マリア・シュナイダー1952年生まれ、ロミー・シュナイダー1938年生まれ、生まれ年を考えたら、そもそもあり得ないわけで。

2011年に出た、同じ町山さんの『トラウマ映画館』(集英社)は、町山さんが小さいころに観て、一種のトラウマを受けた映画のことを書いているけど、この「恋愛映画」の頭についた「トラウマ」は、どちらかというと、町山さんのトラウマというより、製作者や出演俳優の、一種のトラウマの要素が強いように思う(ヒッチコックが典型的だが)。
by boyo1967 | 2013-09-07 23:03 | | Comments(0)