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フィムファールム(4)

ガーン!
鍛冶屋は打ちひしがれ、鍛冶屋の女房は喜びました。「明日にはわたしは自由の身、やったー!」
そして鍛冶屋に助言を求められた女房は、こう言いました。「みんなの前で恥をかかされるぐらいなら、首に石をくくりつけて、身投げしに行きなさいな」
男というのは奇妙なイキモノです。
女房の言うことを鵜呑みにして、間抜けなロバでもしないようなことをしようとするのです。
そして鍛冶屋は立ち上がり、水辺へと向かいました。

川までやって来ると、どこかに何か丸っこい石がないかと見渡しました。もう悩まなくても済むよう、自分の首にくくりつけて、ドボンできるような石。
「ここで一体、何か探しているのかい?」水のなかから声がしました。
「なんでビールを飲みに行かないんだ?」
ほら!
あそこ、葦の葉陰に見えるのは、川から出ている濡れ頭で、それが話しかけているのです。
なんてこった、河童のチョフタンだ!と、鍛冶屋は思いました。
本当にいたとは。
「待てよ、逃げるなよ」その濡れ頭はそう言うと、近づいてきます。
川岸から二、三歩のところで頭が現れ、もう川の浅いところを歩いています。河童の全身が出てきました。
出てくるやいなや、さっと全身の水は切れて、ただ上着の裾から水がぽたぽたしたたり落ちています。
鍛冶屋は逃げようとしましたが、できませんでした。
片足を泥にとられて、引き抜こうとすればするほど抜けなくなっていくのです。
チョフタンは鍛冶屋のまわりをぐるりと回り、しげしげと見ると、どういうことか早くも察しています。
「いいか、身投げしたいなら、よそでやっとくれ。
オレの蓋つきポットには、もう長いこと、溺れ死んだ人間の魂を入れてないんだ(*)。
膨れ上がった土左衛門が川の流れに乗ってここで漂ってたって、もう食べきれない。
お前はどこか木の根っこに引っかかり、水を汚すことになるだろう。
ここでは今や、魚が卵を産もうとしているんだ、どんなにかたくさんの稚魚がそこにやって来て、腐ったものを吸いこんだらどうする。
うんざりするほどの災いを製紙工場や大工場は垂れ流すが、そのうえお前のような奴もいるだなんて。
どうしたっていうんだ。
お前は若くて、たくましい。なのに、この世が楽しくないのかい?」
「あの、」鍛冶屋は口を開きます、「楽しいかもしれません、もし…」
「もし、何だい?」
そこで鍛冶屋はチョフタンに打ち明けました。

「なんだって、じゃあ、川の水を城の庭へ、ひと晩のうちに移すだと?
ちくしょう、そいつは大変なノルマだ!
よし、悪魔がお前を助けたのなら、この河童だってお前を助けてやるよ。
オレらがチェコ人で、ともに伝統的に貴族どもに逆らってきたからにほかならない。
オレの背中に乗れ、流れに逆らって、上流の水車まで行かないと」

*vodnik(ヴォドニーク)スラヴの伝説上の生き物。川や湖に住み、人間を溺死させ、その溺死者の魂を蓋つきポットの中で保管すると信じられている。日本の「河童」に似たところがある。
(さまざまなイラストがあるが、「フィムファールム」の原書に描かれたヴォドニークを載せておく。1992年に出版されたもののようだ。挿絵はイジー・トルンカ。)
フィムファールム(4)_f0008729_21205993.jpg

by boyo1967 | 2018-02-25 23:29 | チェコ・中欧・スラヴ | Comments(0)