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フィムファールム(3)

鍛冶屋は縄をつかむと、森へと向かいました。そして歩きに歩いて、首を吊れそうな枝を探しました。あの枝は高すぎるように思われ、この枝は細すぎるように思われました。ご承知のように、どんな人間も皆、己の生の終わりは、できるかぎり先延ばししようとするものです。ついに手頃な枝が見つかってしまい、もう逃げ口上を言うことはできなくなりました。縄で、子牛の首に掛けるような輪っかをつくり、少し広げて、自分の首に掛けようとすると…。

「おい、ここで何をしている!」
鍛冶屋の正面に、森番の親方が立っています。この辺りでは一度も見かけたことがない人でした。すぐさま親方は、鍛冶屋に説教を始めました。
「いったい何を考えてるんだ?
首吊り人がぶらさがってるなんて、いったいどんな森だよ?
なんて奴なんだ?
誰かが手に縄を持たせたら、羊みたいに従順にトコトコ歩いて、首をくくろうってのかい?
初めてうまくいかないことがあったからって、自殺する人間がいるものかね?」
親方は立て板に水で、しゃべりにしゃべりました。ただ一つだけ奇妙なことがあり、というのは時たま、親方が言葉を発したときに何度も、両方の耳から小さな炎がちろちろと揺らめき、硫黄のような匂いがしたのです。

この人は、下っ端の悪魔ではないだろうか!と、鍛冶屋は感じています。
「とうとう、気づかれちまったか!」親方はしゃべります。「もうオレが悪魔だと知ってるんなら教えてやろう、なんでお前さんに話しかけたのか。
地獄の大釜が、みずから死を選んだ弱虫どもで満杯なのさ。
お前さんが入れる大釜はない―その鎖のことでお前さんを助けてやるほうがマシだ。
さっさと家に帰れ、鎖は用意してやる」

そう言うと、下っ端悪魔は地面から五十センチほど浮かび上がり、電球のように輝き始めて、こんなことを言います。
「これでお前さんも笑えるだろう」
そしてぐるぐると回転を始め、ついには森全体が明るくなると、悪魔から火花が飛び散りました。まるで回転砥石が鋼(はがね)を削っているかのようです。
ええ、鍛冶屋は気に入ったというわけではなかったでしょうが、笑いはしたでしょう。

そして鍛冶屋は、まだ笑っていました。例の鎖が確かに朝までに打ち上がったことに、召使い頭が驚いたのを見てから一週間ずっと。その上、公爵さまは鍛冶屋に五百ドゥカートを遣わしました。

けれどもじきに、笑いは鍛冶屋から去っていきました。召使い頭は、また公爵さまが一杯機嫌になるのを待って、蛇みたいにシュウシュウささやいたのです。
「鍛冶屋が、自分はなんでもできると自慢しています。
公爵さまに教えて差し上げることもできるのにとか…それにほら、奴がお城のほうへと唾を吐くのを見た者もいるそうです…」
つまるところ、その日のうちに召使い頭は、鍛冶屋に奇妙な命令書を読み上げていました。
「鍛冶屋は、一夜のうちに川の水を城の庭園に移すこと。
できれば一千ドゥカート与える。
もしできなければ、縛り首に処す!」

by boyo1967 | 2018-01-28 23:05 | チェコ・中欧・スラヴ | Comments(0)