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薬師寺 東塔新旧水煙―東塔を「凍れる音楽」と評したのは黒田鵬心だった

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薬師寺の梅の花。奥に見える覆い屋は、現在修理中の東塔のもの

梅田・お初天神の「北よし」にワイン友達とカニを食べに行くことにしていたので、その前の時間、奈良の薬師寺で、国宝東塔の新旧水煙が公開されているというのを、見に行くことにした。

薬師寺の国宝東塔は、天平2年(730)の建立と考えられている、同寺で唯一、創建当時から現存の、1300年の歴史ある建物。
現在、明治時代の1898〜1900年(明治31〜33年)以来の解体修理中。
姫路城の保存修理に携わる人の講演で聞いたことによれば、姫路城を例にとると、現在の池田輝政による姫路城は1609年の完成後、350年の時を経て昭和中期に解体修理が行なわれ、その次の解体修理は350年に0.8を掛けた280年後の2235年と考えられており、その次はさらに0.8を掛けた224年後、と解体修理の間隔が狭まっていき、何度か0.8を掛けた末にその間隔が150年になると、もう0.8を掛けることはせず、150年の修理間隔となり、奈良の古い建築物はすでにその修理サイクルに入っているという。
明治の修理から約110年、安全側を考えた解体修理なのだろう。

今回の東塔解体修理では、頂部を飾る水煙が新調されることとなり、新しい水煙を東塔頂部に取り付ける前に、古い水煙と並べて公開されることになった。

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白鳳伽藍、東回廊の東側で公開中
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薬師寺東塔の水煙というと、透かし彫りの「飛天」が有名。
雑誌「サライ」ウェブサイトの記事によると、この笛を吹く天人は男性だそうだ
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手前が1300年前、奥が新たにつくられた水煙。
新しいものは、富山県高岡市の工房に依頼したものという

この日、薬師寺ではこの東塔新旧水煙ほか、西塔初層内陣「釈迦四相像」(お釈迦様の生涯のブロンズ像。中村俊夫作)、食堂(中に田渕俊夫「阿弥陀三尊浄土図」はじめ14面の壁画)、玄奘三蔵院伽藍・大唐西域壁画殿を配管することができ、思いがけず梅の花も楽しめて、本当によかった。

実は、新旧水煙公開を知って、もう東塔の解体修理が終わったものと早合点して行ったのだけど、冒頭の梅の写真のところで書いたとおり、東塔はまだ覆い屋に覆われていて工事中。
それは残念だったけど、それを補ってなお余りあった。

なお、東塔は、屋根と、小さい屋根の裳階(もこし)が交互に連なるその美しさから
「凍れる音楽」
と評されるが、アメリカの美術研究家フェノロサが言ったとされるのは誤りで、日本の美術評論家・黒田鵬心(くろだ・ほうしん 1885〜1967)が著書『奈良と京都』で書いたのが日本で初めてのものだと、NHKの薬師寺特集番組が2008年の時点で言っているそうだ。
『奈良と京都』は、国立国会図書館デジタルコレクションで読むことができる。

〈…此の三重塔は非常に立派な芸術である。三重とは云うものの、一重毎に裳層(もこし)がついているので、六重の様に見える。而して裳層の軒の出はやや少いので、六重の軒は多く出たのと短く出たのと、交互になっている。だから一寸考えると如何にも不格好の様であるが、実際其の塔を仰ぐと何とも云えぬ美しい形である。各重と裳層の、巾と高さとの割合が寸分の隙も無い。建築は「氷れる音楽」だと云われているが、其の最も好い例を此の三重塔に於いて見る事が出来る。〉(新漢字・新仮名遣いに改めた)
『奈良と京都』黒田鵬心、趣味普及会、1917年、23頁

【追記】
では、建築を氷れる音楽だと言った人は誰だろう?と、
「architecture frozen music」で検索してみると、英語圏でも疑問に思っている人が多いようで、どこかの質問サイトに行き当たり、それをグーグル翻訳したところ「ゲーテ」だということだった。
それでさらに「ゲーテ 建築 凍れる音楽」で検索してみると、「東京ゲーテ記念館公式サイト」に以下の記述があった。
「ゲ―テの言葉の出典の問い合わせがよくあります。音楽関係で多いのは、「建築は凍れる音楽だ」です。『箴言と省察(せいさつ)』を見ると、ゲーテは、「ある気高い哲学者が、建築作品 (Baukunst)を凍れる(erstarrten)音楽と名づけたが」と書いており、結論的には、あえてそう言うのなら、「建築(Architektur)を無言のサウンドアート(Tonkunst)と呼んだらいい」と、含みのある言い方をしており、ずばり「建築は凍れる音楽だ」とは言っていません。ちなみに、この「哲学者」は、フリードリッヒ・シュレーゲルを指すと言われています」
元ネタは、ゲーテであった。

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白鳳伽藍・中門。
左に見えるのは、西塔
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玄奘三蔵院伽藍・玄奘塔。
額の「不東」は、仏教研究のために唐の長安からインドへ向けた出立した玄奘の
「目的を達するまで、決して東(=唐)には戻らない」
という決意を表す語
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白鳳伽藍・龍王院近くにある「吉祥(きちじょう)椿」。
隣には「讃良(さらら)椿」も植わっている
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サンシュユかなぁ…
(回廊越しに修理中の東塔の覆い屋が見える)

by boyo1967 | 2019-03-02 23:02 | Comments(0)